5年かけボトルインクの瓶が空く

5年かけボトルインクの瓶が空く

先日、万年筆に使っているボトルインク、色彩雫(いろしずく)の紺碧(こんぺき)が空きました。ボトルを空けるのにかかった期間はおよそ5年。その間、空の蒼の名を冠したその冴えた碧色は、日々のアイデアや他愛のない心象風景を些末な字となって記録を残し続けてくれました。

ウイスキーなら1時間もあればダブルの60mlはグラスが空くのにボトルインクの50mlが空くまでには、随分とまあ「時間」がかかったと言えるでしょう。子どもたちは言葉にならない音では無く意味のある文章を話すまでにすっかり大きくなり、そして私の髪には白いものと地肌が目立つようにもなったわけですから。

少しだけボトルインクの話をすると、インクの入れるコンバータへ補充できるインクの量というのは、1回あたり0.4ml(con-40)とか0.7ml(con-70)の消費量でざっと100回前後は補充しないとボトルインクがなくならない計算となります。コンバータに1回インクを補充すると私の場合は2-3週間はもちましたから、結局のところ瓶が空くまでに2-3週/回×100回≒約250週≒ざっくり5年かかることとなったわけです。

時の流れを時分秒の時間の単位で表すことなく行為の換算から見てみると、1ウイスキーダブル=1時間だとか1ボトルインク=5年だとか何かの新しい単位に聞こえてきます。1十太夫=2分半(十太夫近隣公園1周を走る時間)のように、私の暮らしをベースにしたまるで交換性も無ければ均質性も無いその単位は、その代わりに唯一無二の自分だけの時間の流れを「物語」へと変えて心に刻むようでもあります。

デジタル全盛の世の中でアナログの極みともいえる手書きをすることは随分と少なくなりましたけれども、紙の上を滑る筆圧のいらない万年筆を走らせるような独特の書き心地やインクの濃淡が見せるグラデーションの美しさに魅せられたことは幸いなことでした。お世辞にも綺麗と言えない自分の字に「味」だとか「風情」だとかのいくばくかの言い訳をしながら、メモとメモが繋がって生まれた着想に歓喜し、手帳に残された体重のメモに「あの頃私は軽かった」と目を細めたりと、私の1ボトルインクの期間は存外に良い物語を書き残してくれたように感じます。

iroshizuku 紺碧

そしてつい最近、2本目の紺碧を迎えました。2本目のボトルインクを使い切るまでに何年かかるかはちょっとしたお楽しみでしょうけれども、一番の楽しみは、やはりこのインクとともにどんな物語を共に歩むことになるかでしょうか。

できることならば、ささやかな人生への期待と楽しい熟成の頃の物語の続きをこの空の蒼を冠したインクに載せてノートに残していけたらと思います。

「はげてないよ!」
流山すみずみ

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